三之助が女の子です。
作兵衛と左門も女の子です。
なんというか藤内の性格が迷子です。









































ねえ


好きだよ。



ありえない。けど空耳でも聞き間違いでもない。だってアイツは俺の服を掴んでそして目を見て言ったんだ。普段はどこ見てるかわかんないくせに、こんな時だけしっかりと対象を見据えるその目に心臓は盛大に飛び跳ねた。
突然の出来事。俺は学ランで、アイツはセーラー服だった。夕焼けが綺麗で、明日も良い天気だろうななんて考えてたら急に投下された爆弾。何も言えずにその場を逃げ出した大馬鹿者はこの俺だ。



次の日。非常にも学校はあった。いや学校がなくなるわけはないので授業があったと言うべきか、という小学生のような言葉遊びを学校の前でしているのは女の子の告白から逃げ出した浦風藤内という卑怯者である。たとえその女の子が幼馴染で小さい頃からの知り合いだったとしても世間から見て悪いのは俺だろう。というか俺から見ても悪いのは俺だ。
何も言わず逃げ出した俺は、会って何を言えばいいのだろう。でもクラスは違うからもしかしたら今日は会わずにすむかもしれない。なんて卑怯な事を考える。そんな人間の思惑通りにことが進む確率は見事に禿げ上がった校長の毛根が蘇るより低いのだろう。しっかりと朝から校門前で出会ってしまった。ああ本当に俺は何を言えばいいんだ。
「おはよー藤内」
作と左門が俺に声をかける。今日も仲良く3人で登校である。訂正。作が居ないと左門も三之助もまともに学校につかないので必然的に3人である。
おはよう、すら言えずにまごついている俺に、大して興味がないのか左門は昇降口とは間逆へ走っていこうとして作は必死にその方向を正していた。そのまま二人は昇降口へと走っていってしまったので必然的に俺と三之助が二人きりになる。ちなみにいつも一緒に登校している数馬は日直だと言って俺より早く教室に向かっている。なんでこんな時に限ってと親友を恨まずにはいられなかった。
どうしよう何を言えば、とりあえず昨日の事を、逃げ出したことを謝るべきなのか。そんな事を考えていると三之助が口を開いた。
「どしたの、藤内。なんか今日変だよ」
お前がそれを言うか。
三之助はあっけらかんとしていて、昨日の告白も「今日も暑いね」みたいな日常会話であったかのような素振りだ。あれ、昨日の告白って夢だった?
「遅れるよ」
そう言ってあらぬ方向へ向かおうとする三之助の手をひいて昇降口へ向かった。とりあえず手を握っても無反応。やっぱり昨日の告白は俺の聞き間違いか夢だったのだろうか。そんな事をずっと考えながら歩いていた。だから、手をひいて前を歩いていた俺は知らない。三之助の顔が少しばかり赤くなってたことを。


なんとそれから一週間が流れた。
俺は結局何も言えず、三之助もあれ以来何も言わなかった。二人きりになってもその調子で、本当に告白は夢に思えた。あの真っ直ぐ俺を見据える目だとか、急激に増した心搏数だとか、グラウンドに響く野球部の声とか、怖いくらいに綺麗な夕焼けとか、全部はっきりと思い出せるのに。好きだよ、って言った声だって鮮明に覚えてるのに。
そうだ俺は嬉しかったんだ。だって、本当はずっと好きだった。初めて会った時から可愛いって、思ってたんだ。誰にも言った事はなかったけれど数馬にはすぐばれた。藤内、三之助のこと好きでしょ。あの時の数馬の笑顔といったら。真っ赤になって違うと言ったけれど意味は無かった。そして小心者の俺はちょっと怖くなって確かめた。数馬ももしかして三之助のこと。そしたら笑われた。僕は違うよって。ひどく安心したのを覚えてる。
そう、そんなに好きなのだ。なのに何故逃げ出したのかと言うと。
コンプレックスである。劣等感。何にって、身長だ。
俺より三之助の方が背が高いのである。女の子の方が成長が早いからと世間は言うが三之助は168cm。しかもまだまだ伸びているらしい。対する俺は・・・悲しくなってくるので言わない。だから密かに決めていたことがあるのに、三之助が急に好きだなんて言うから俺の頭の中はパニックだった。
だってアイツは知らないだろう!俺がアイツの背を追い越したら告白する気だったこと!
「でもそんな悠長な事言ってると盗られちゃうよ」
横でいきなり親友の声がした。悠長という言葉に少し棘を感じる。俺にはまだまだ成長期が残っているから大丈夫なはずだ。なんてそんな事ではなくて。
「盗られるって、誰に・・・!?」
「三之助、結構人気なんだよ。知らないの?」
まあ胸はないけどスタイル抜群モデル体系だからね。狙ってる男子多いんだよ。親友が天使のような笑みで言う。この笑顔の裏には悪魔のような本性が隠れていることを俺は知ってる。三之助を狙っていると言う輩の名前を次々を数馬が挙げだしたので俺はひたすら青くなった。
「どうするの、藤内。せっかく三之助がすきだよって言ってくれたのに、ちっぽけなコンプレックスで返事もしないなんて、男として最低だよ」
某RPGゲームで言う、つうこんのいちげき、がきた。どうやら親友は少々お怒りらしい。普段なら俺にはふってこない棘が言葉の端々にばら撒かれている。あれ、何で俺が三之助に告白されたって知ってるんだ?
「三之助、今教室にいるよ」
作と左門は委員会でいないみたいという数馬の言葉は聞こえていなかった。


「藤内」
びっくりした、といつもと大して表情を変えずに教室に一人きり本を読んでいた三之助が言った。どうしたのそんなに急いでって言われて何も答えられなくなる。どうしたのって、それは。
ああ、好きって言うのって、すごく勇気がいるんだな。あの時三之助はどんな思いで俺に好きって言ってくれたんだろう。逃げ出した自分を本気で殴りたい。1週間何も言わなかった自分を半殺しにしてやりたい。
黙ったままの俺を見てもう一回三之助がどうしたのって言った。
いとしい、の感情がわかった気がした。
「好きだよ」
好きだよ、大好き。逃げてごめん。でも嫌いだからじゃないんだ。
目の前の細い体を抱きしめて言った。三之助がポツリと、ウソ・・・と言った。
ウソなわけない。だって平気でこんなウソがつけるほど俺が器用じゃないの、知ってるだろ。
座ったままの三之助の額に軽くキスする。もう一回三之助がウソって言った。だって藤内逃げちゃったから、だから何も言わないようにしてたのにって言って混乱した顔で俺を見る。俺は本当に馬鹿だ。好きな子になんて思いさせたんだ。
本当だよって意味を込めて薄い唇にキスする。ほら、俺は器用じゃないんだ。好きでもない子とキスなんて出来るわけないだろう。
三之助は真っ赤になって夢みたいって言った。


It's too sweet!


なんで逃げたの?って聞かれた。まあ当たり前である。おとなしく俺はお前より背が低いからって答えた。そんなの関係ないのにって三之助は笑った。
けどやっぱり三之助に見合うだけの身長は欲しいので数馬に相談することにする。



ちなみに数馬が少々お怒りだったのは三之助の微妙な変化を感じ取った作が事情を聞きだし、それを数馬に相談したからだった。三之助や逃げ出した俺がどうこうよりも主に作を悩ませたことが原因らしい。いつの間にか数馬の中の比重は俺より作の方が大きくなっていたようだ。男同士の友情ってそんなものかと少しばかり悲しくなったが今数馬と三之助を天秤にかけるとどちらに傾くか確実に分かってる俺に言えた義理ではない。
藤内の天秤が僕より三之助に傾いたのは出会った瞬間からだよ、とどこかでこっそり天使の笑顔を浮かべた悪魔が笑った。













2009/10/07

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