戸をあけるとラッカーの臭いがした。
なんだまた何か作ってるのかと思ったら違った。
「ノックしろよ団蔵」
そう言ってこっちを不機嫌な目で見る笹山兵太夫(16歳)性別:男 はマニキュアを塗っていた。何事!?
「マニキュアじゃねーよ、ペディキュア」
心を読まれる。まあわりといつもなので気にしない。ペディなんとかはマニキュアとは違うのか。
「ペディキュアは足」
俺、喋んなくてもこいつと会話できるんじゃね?そんな馬鹿なことを考えつつ、何故目の前の高校生(男)がペなんたらを塗っているかを考える。
1、女装趣味
2、女装趣味
3、女装趣味
俺の貧困な想像力でも3つの可能性が出てきたぞ!すごいだろう!
しかし女装趣味となると手の爪なんかに塗るんじゃないのか。それとも兵太夫はわりかし完璧趣味だから足から攻めていっているのか。完全に兵太夫の趣味が機械いじりと女装ということで俺の脳内が思考を始めようとしたら殴られた。俺に100%非がないとは言えないので今回は黙っておく。
「こないだ足の爪の変なとこ割れて、これ以上広がる前にボンドでどうにかするかーとか思ってたらクラスの女子がくれたんだよ」
なんとマニキュアは爪の割れを防止できるらしい。まったく縁のない俺はそんな事知らなかった。だって化粧道具って昔かーちゃんの口紅で遊んで怒られたくらいで他に何が思い浮かぶかって言うとぶっちゃけ何も出てこない。
そんな事をもんもんと考えていると目の前の兵太夫が嫌な顔で笑った。あ、これはなんか悪い事を考えている。お邪魔しましたって逃げようとしたら先に「こっち来いよ団蔵」と言われてしまった。おとなしく従わないと後が怖い。今からも怖いのだが。
とりあえず促されるままベッドに腰掛ける。相変わらず小奇麗な部屋は机の上だけ喧しい。この間やっと半田ごてを手に入れたと言って浮かれていたがきっとあの樹海のような机の上にあるのだろう。片付いている、いない、の問題ではなくなにかしら作りかけのものが兵太夫に言わせれば一番分かり易い状態で置いてある。その手前に何か色鮮やかなものを見つけた。何だろう、何かの塗料か。
「団蔵足出して」
言われるままに足を椅子に座った兵太夫に向ける。昔ガンプラとか作ったけど塗料ってあんなビンに入ってたっけ。
ひたと爪に違和感を感じて兵太夫の手元を見ると同じビンがあった。まさか。
「じっとしてろよ」
兵太夫が笑いながら俺の無骨な足の爪にぺたぺたとマニキュアを塗っていた。
「ぎゃー何すんだよ!!!」
「大丈夫だって、すぐ落とせる」
リムーバーというモノをちらつかせながら尚もぺたぺたと俺の足の爪は青く塗られてゆく。ほんとに落ちるんだろうな、これ。
「あんなに貰ったのか?」
言うだけ無駄だし今日は痛くないからまあいいか。抵抗を諦めた俺は机の上を見やった。赤、青、黄色、緑、ピンク、紫。
「貰ったのはピンクだけ。あとは買った」
女装趣味がやっぱりあるんじゃねーのかと思っていたら機械いじりの延長で完成品に色をつけるのに面白そうだからという答えが返ってきた。ちょっと安心。けど兵太夫は綺麗な顔してるし綺麗なモノが好きだから、爪に塗る目的だけでも納得は出来た。
「なんであんなに色があるのに青なんだ?」
ふと思った。よくわかんないけど赤とかが王道じゃないのか。そしたら兵太夫が笑った。
「お前のイメージだよ、これ」


BREATHLESS BLUE


「息もできないほどの青、だよ。うつくしいだろ」
俺はお前のせいで息ができそうにない。




本当は団蔵のイメージはSky Blue GlitterとかTreasure Blueなんですが名前が素敵だったのでBreathless Blueに。L.A. Girleです。











2009/10/09

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