兵ちゃんたらまた団蔵ばかり罠にかけて。
まぁ、好きな子ほど苛めたいって言うけどね。
同室の三治郎がさらりとはいたその言葉を僕はうまく飲み込めずにいた。
好きな子、ほど。そう言われるほど僕は団蔵にばかりカラクリを仕掛けていただろうか。金吾や虎若にだって、と思い団蔵に仕掛けた数との確かな差に愕然とする。無意識の内の行動だから余計に怖い。
ほら団蔵の反応が一番面白いから、と自分に言い聞かせようとしたところで一度気付いてしまった事実は覆せなかった。
けれどそんな事実をすぐさま恋だとか愛だとかとは結び付けられない僕はとりあえずいつも通りを突き通すことにした。三治郎にだって一応、そんなことないけどねとだけ言っておいた。あまり多くを言うと墓穴を掘ることになりそうだったし、もしかしたら後で何かしら世話になるかもしれない。恥ずかしながら僕は三治郎には弱いのだ。
そんなこんなでもやもやと色々考え込みながら平素を装って授業を受けて委員会に行った。立花先輩がさらりと、兵太夫は早熟だなとこぼしたのでああこの先輩に隠し事なんて無意味だなぁと思うと同時にやはり他人の目から見ると僕は団蔵を好ましく、もっとそれ以上の感情で想っているように見えるのだなぁと思った。ちなみに綾部先輩は関心が無いようで浦風先輩と伝七は全く気付いていない。更に言うとは組では、きり丸が早くも何かを嗅ぎつけた様で庄左ヱ門は多分感づいたけれど興味が無いはずだ。乱太郎は団蔵たちが怪我するからカラクリは控えて、なんて言っているから普通どおり。他の面々も大方普段どおり。当の本人である団蔵は本気で鈍いので問題外だろう。
委員会も終わって長屋に戻っていつも通りカラクリの図面を引いていたら三治郎はもう何も言ってこなかった。
小松田さんが消灯を告げに来て、もう少し図面を引きたかったのだけれど大人しく明かりを消す。三治郎におやすみ、と言って布団の中でさぁ眠ろうとしたけれど図面が気になって中々寝付けない。嘘。団蔵が気になって寝付けない。団蔵に対する自分の気持ちが1日考えたけれどよく分からない。好んでカラクリは仕掛けている。それは事実だ。反応が面白い。それも事実。だからと言って直接「好き」に結びつけるのは、ちょっと違う気がする。
だいたい好きってどういうものなんだ。悩み始めると眠気なんてちっともやってこない。
少し頭を冷やそうと思って井戸に向かっていると悩みの根源とぶつかった。委員会帰りなのかもう夜も遅いのにまだ制服で、そしてほのかに墨の香りがする。
「まだ委員会やってたんだ」
帳簿が合わなくて、と団蔵が笑う。
「でも、今日は鍛錬はせずにすんだからもう寝れる」
嬉しそうな理由はどうやらそれらしい。特に用があるわけではないし、よく余計な事を言ってしまう口を持っている僕は何か変なことを口走ってしまう前にその場から立ち去ろうとしたら団蔵の手が僕の顔に急に触れた。
「墨ついてんぞ。またなんかのカラクリ?」
そう言ってやっぱり笑う団蔵を見て顔に血が集まるのを感じた。ああ夜でよかった、暗くてよかった。って、そんな事ではなくて。
適当に返事をして団蔵と分かれて井戸の方へ駆けた。
好きっていう気持ちは、よくわからない。けどきっと顔は真っ赤だ。触れられたところが熱を持って今では全身熱い。
これが、恋?まさか本当にあの鈍い馬鹿に?
現実は待ってくれない
なんて事もあったなぁ、物思いにふけっていたら団蔵の声が聞こえてきた。
「何兵太夫、なんか悪い顔して」
団蔵曰く「悪い顔」のままにっこりと笑って言ってやる。
「お前の事考えてたんだよ」
面白いくらい真っ赤になった団蔵はそれでも僕の隣から離れなかった。お互いが現実に追いついた結果である。
「お前、もう僕のものだから」様に参加させていただきました。
2009/11/01
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