※左吉と伝七が女の子です。





























それは可愛らしくて、いかにも女の子が好きそうなピンクを基調にした口紅だった。
「あれ、伝七…」
いつもと違う。そう、瞬時に思った。違和感とまではいかないのだけれど、ほんの少しの変化。ああそうか。
「口紅、塗ってるんだ」
そう口に出すと目の前の赤毛の彼女は頬を染めた。
「わ、わかる?」
わかるよ、だって。ずっと。見ていたもの。
「ピンク、可愛いね」
笑いかけると伝七の目は少しだけ泳いだ。
「化粧…とかさ、ほんとは全然わかんなくて、でも興味あって」
そうたどたどしく話し始めた彼女はドラッグストアで一目ぼれした口紅を、恥ずかしくて試しもせずにとりあえず買ってみたと照れたように笑った。
「伝七は化粧なんてしなくても可愛いのに」
本心からぽつりと言うと彼女は大きな目を丸くしてさらに真っ赤になった。「可愛い」だとか「綺麗」だとか言う言葉に彼女は弱い。言われ慣れてないせいか、性格かあるいは両方か。
「リップくらいならいいけど、伝七、肌綺麗なんだから化粧なんかしたらもったいないよ」
どうせ嫌でも化粧なんてしなければいけない年になるんだし。そう言って少しだけ意地悪く笑うと伝七も笑った。
「そうだね、左吉の言う通りかも。それにこのリップ、僕にはあってないなぁーって鏡の前で思っちゃって」
なるほど、似合っていないわけではないが赤みの強い髪を持っている彼女がつけるには少々イメージが違う色だった。
「左吉の方が、絶対似合うよこの色」
そう言って小さなおもちゃのような口紅を伝七が差し出す。
「一回使っちゃったけど、良かったら貰って」
思いがけない出来事に一瞬固まった。凍りついた自分の表情を見て伝七が、ごめんやっぱり使いかけなんて嫌だよね、と手を戻そうとする。それを見て一瞬で頭は動き出した。
「ううん、ありがたく頂くよ。なんたって伝七のお墨付きだものね」
いつもの表情。崩してはいけない。そしていつもの顔で笑って、小さな手鏡を取り出してその場でその口紅を塗ってみた。色の白い自分にはよく映える綺麗な薄い桃色。似合う?そう言って唇を笑顔の形に固定すると彼女ははじけるように笑ってやっぱり左吉のほうが似合うと言ってくれた。


お揃いの唇の色で笑い合ったあの一瞬は、自分の中で永遠にも等しい時間だった。
その時以来その口紅は使っていない。
塗ってしまえば。減ってしまえば。自分の中の何かも一緒に摩耗してしまう気がして。
だから僕はそのオモチャみたいな口紅を今でもバカみたいに大切に持っている。
何があっても大丈夫だと言い聞かせるようにその口紅を、お守りのように持ち続けている。
いつも人知れずポケットに入っているルージュは、いつも人知れず僕を守っている。外敵からの攻撃からも、内部からの崩壊からも。


それは拳銃にも似た











2010/02/23
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