少しずつ少しずつ崩れてゆけばいい。
その先をきっと待ってる。
三郎を抱いた。
正確に言うと「中在家先輩の姿を真似た三郎」を、だけれど。
いつ見たのやら傷の一つ一つまで丁寧に真似ていて、酷く執念めいたものを感じた。
それは甘く甘く、毒の味がする感情だった。
体格までは真似ることができないから、傷だけ同じ不格好な可愛い彼。
得意の変装と千の声音で、一生懸命に彼の人を真似る彼。
偽物の傷を舐めあげると彼は甘美な声でないた。
その声を聞くと背筋が震え上がった。
これは、歓喜だ。
細胞の一つ一つが知っていた。喜びの声を発していた。
嗚呼、彼はこんなにも、自分の事を好いているのだ。
嗚呼、彼は自分に抱かれるためなら、他者になりすます事も厭わないのだ。
この気持ちを、なんと言おう。
きっとどれだけ突き放しても、可哀そうな彼は自分を思うことを止められないのだろう。
酷く嗜虐的な気分になった。
甘く自分を引き留める彼の中に欲を放つ瞬間、快感とは別に思うことがあった。
それを実行してみようと思った。
だから果てる時に彼の名前を呼ばず、彼が化けている人の名を、さも恋しい人の名のように呼んでみた。
彼の顔には絶望が混じっていて、それを見ているのはとても心地よかった。
この瞬間にこそ自分は果てたと言っても過言ではなかった。
自分も、囚われているのだ。
目の前の可哀そうな彼に。
可哀そうな三郎。そこまで自分を捨てるなんて。
可愛い三郎。そうまでして僕に抱かれたいなんて。
滑稽な三郎。僕が君のことをこんなにも歪んだ感情で愛していることに気付かないなんて。
そうだよ。
君はきっと知らないのだろうけれど。
僕は君を愛しているのだよ。こんなにも。溢れんばかりに。
それは君が望んだ形ではないのかもしれないけれど。
少しずつ少しずつ崩れてゆけばいい。
その先を、ずっと待ってる。
卑しい化け物、それは。
2009/06/14write
2009/09/16up