勘右衛門が女の子で久々知の頭が可愛そうです。
「ねぇ、兵助、聞いてる」
そう言って勘ちゃんがコーヒーの入ったマグカップを持ってこちらを伺っていた。あれ、俺、何してたっけ。砂糖いれなくて良かったよね。確かそんな言葉を聴いた気がする。それにしてもここは俺のアパートであり、彼女の部屋ではないのだがなぜ彼女が俺にコーヒーをいれてくれているのだろう。いや、そんな家庭的な所がとても魅力的だ、ぜひお嫁にきてほしいものである、純白のドレスの勘ちゃん、想像するだけでアドレナリンが大量分泌される。あれ、俺、何してたっけ。そしてこの問いは二度目のような気がするが、全ては目の前の彼女が可愛いからという事で済ませてしまっていいだろう。俺ほど彼女を愛している男はいない!これは断言できる。
とりあえず砂糖もミルクも俺は要らないけど、勘ちゃんミルクいるなら冷蔵庫に入ってるからとだけ答えて今自分が何をしていたか見つめなおす。今日は休日で、昼間に二人で映画を見に行った。彼女に選択権を全て委ねると、とびっきり甘いラブロマンスかと思いきや日本が誇るジャパニーズホラーのチケットとパンフレットを持ってうきうきとしていた。コーラとポップコーンを片手にはしゃぐ彼女を見ていれば上映されている内容なんか関係ないんだなぁ、なんて薄暗いスクリーンを横目に思ったものだ。しかし全然怖がっていないというか始終笑顔でスクリーンの中の女優が悲鳴をあげているシーンではより一層活き活きとしていたのでよく漫画などで見る「彼女が怖がって彼氏に抱きつく」というシチュエーションは起こらなかった。至極残念である。そうだ、映画の後どこかでご飯でもと言っていたら雨が降ってきたんだった。それで慌てて近くだった俺の家に来たのである。ん、ちょっと待て。いくら近いとは言えそれなりに距離はある。
「勘ちゃん、ちょっと!」
思ったとおり彼女の肩は濡れていて触ると少しひやりとした。
「コーヒーの前にタオルだよ!」
慌ててタンスからバスタオルを出して急いで、けれどできるだけ丁寧に長い髪から湿気をとる。大きな目がきょとんとこちらを見ていて、女の子なんだから身体冷やしちゃ駄目だろうと言うとこれくらいで兵助は大げさだなぁと笑った。大げさなものかと言って彼女の服に手をかけて、濡れた服を着替えさせようとしたのだがそこで気付く。何で俺が脱がせようとしてるんだ。
「ごめっ・・・!」
慌てて顔をそらして、これ着替えだから、とシャツを渡してどうにかいやらしい意図など無いんだと言う事を分かってもらいたかったのだが、リアルに彼女が脱いだ所を想像してしまってまぁはっきり言うと欲情した。いったん想像した映像は中々消えず、そして欲と言うものは単純で目の前の彼女に触れたくてたまらなくなってくる。
「兵助」
必死に煩悩を打ち消そうとしていた俺の努力は急に抱きついてきた彼女の柔らかな感触の前に無慙にも消えていった。ふふ、兵助、シたくなったでしょ。そう言って大きな瞳が見上げてくる。嘘は吐けない、というか最愛の彼女に抱きついてこられて平常心でいられるヤツは男じゃない。正直に、うん、と言うと彼女は笑う。
「嫌だったらちゃんと嫌って言うから、遠慮しなくていいんだよ。だって私は兵助の彼女でしょう」
彼女冥利につきるってものだよ、と少し照れた笑顔でさらに強く抱きついてきたので理性はそこで白く焼ききれた。
「・・・ふっ・・・」
甘い声が脳髄に響いてたまらなく心地良い。可能な限り優しくベッドに押し倒して一枚一枚服を脱がしながら深く深く口付けた。ああ、口付けさえも甘い。
胸の飾りを舌で転がすと声がより一層高く、そして甘くなる。可愛い。愛しい。そして独占欲と、頭をもたげる征服欲。誰にも渡さない。誰にも見せたくない。
ゆっくりと指を増やして中でばらばらに動かすと細い指が腕に絡んでくる。も、大丈夫、だから。何が、なんてそんな意地悪な事は聞くつもりは無いし聞いている余裕もない。濡れたそこは簡単に自分を受け入れて、意識が一瞬飛びそうになった。
「・・・全部、入った・・・」
そう言って繋がったままキスすると、角度が変わって溜め息が漏れる。あのね、と濡れた瞳の彼女が口を開いた。
「兵助の事、誰、にもね、見せたくないくらい」
好きなんだよ。
その言葉に血が沸騰するかと思った。嬉しい。泣きたくなるくらい。俺も、勘ちゃんの事、誰にも渡したくない。好きだよ。大好き。稚拙な愛の告白は、それでも彼女を喜ばせる事に成功したらしく飛びっきりの笑顔を見せてくれた。
ベッドの中は彼女の香りに満ちていて、充足感をひたひたと感じる。隣を見ると、うとうととまどろむ彼女がいた。ああこの感じが、ずっと続けばいいのに。そうだ、例えば。
「けっこん、しようか」
思わず口に出た希望は彼女と自分の吐息しか存在しない部屋に静かに響いた。
「うれしい」
眠っていたはずの彼女の声がして、驚いて目を見張る。え、今、何て。
「兵助は、私の事、絶対しあわせにしてくれるでしょう。ふふ、自信、あるよ」
だから私も兵助のことめいっぱいしあわせにするよ、と彼女は俺の手を握って言う。
純白のドレスの君が一気に夢ではなくなった。
なんとしあわせなことでしょう!
2009/11/29
2009/12/02