※4Pで左右が百合です。挿絵付き。














始まりはごくごく普通の日常に紛れ込んだ、年頃らしい猥談で、そこに含まれた少しの自慢からだった。



「可愛いものだぞ!」
七松がからからと笑う。風呂上りにばったりと遭遇した暴君と名高い七松小平太は、何を始めとしたかはとんと忘れたが恋人の話をし始めた。何だかんだ言って好奇心の勝った自分はそれを静かに聞いていた。
「あの八左が、ですか」
自分の知る竹谷八左ヱ門と言う男はいつも何かしら生物だ虫だと忙しい熱血漢であり「可愛らしさ」というものからはかけ離れた存在である。その八左ヱ門を可愛いと言ってのける七松の感性がよく分からなかった。
「そういう久々知こそ、あの尾浜というヤツはどうなんだ」
七松がまぁ竹谷には叶わんだろうがな、と自信満々の顔でこちらを見てくる。驚いた、自分と勘右衛門の関係を知っているとは。ひた隠しにしているわけでは無いが、公言しているわけでもない。何より目の前の、世間の事などどうでも良いと思っていそうな男の口からその話題が飛び出るとは思わなかった。
「可愛いですよ、そりゃ」
好いた相手ですもの。さらりと言うと、中々言うな、と背中を痛いほど叩かれた。
「なあ久々知」
なんですか、と問うと暴君がさらりと事も無げに言った。「さて秘め事といかないか」。普段ならそんな話に乗る事は絶対に無いし、そもそもそんな話を持ち込む輩が周りにいない。その時承諾したのはただただ好奇心とそしてささやかな反抗心が一瞬平常心より勝ったからだった。




何でこんな事になっているかが分からない。
いつものように空き部屋に呼び出されてあっという間に着物を脱がされ、そのまま愛撫を受けていたら戸が開いた。驚いて見上げると同じく驚いた表情の勘右衛門と、しれっとした兵助が居た。お邪魔します七松先輩。兵助の低い声が響いて勘右衛門が尚も混乱した顔をしている。勘ちゃん俺の事好き?場違いな質問が飛び出てそれに勘右衛門はもちろん大好きだけどとのんきに答える。なんだこいつらと思っていたら七松先輩が急に口付けてきた。
「ちょ、せんぱ・・・っ」
深い口付けを与えられて抗議の言葉は形を成すことなく霧散した。思考が全て七松と言う男で占められる。獣を連想させる男の口付けは驚くほどに甘い。そして自分はそれに弱い。長い口付けから開放され、潤んだ瞳で先ほどの来訪者を見やれば彼らも自分達と同じ様に睦びあっていた。
「八左」
七松先輩が名を呼ぶ。情事の時にしかその口がその音を紡ぐことはない。その音がもっと聞きたい。兵助と勘右衛門が何故ここに居るのか全く分からないけれど、もうそれ以上彼らの事を考える余裕は無かった。
「七松、先輩」
足りない、もっと。そう視線に含ませて見やると野性の王者の風格で彼は笑った。




もう来訪者は気にならないのか、いつもの声で年下の恋人はないた。先輩、せんぱい、と縋ってくる。これが可愛いのだ。なあ見てみろよ、久々知。そう口に出して我ながら意地悪く笑うと、ちらりと久々知はこちらを見た。その瞳も欲に濡れていて、こいつもこんな表情ができるのだなと変に感心する。女のようなやつだといつぞやは思っていたものだが立派に男だ。立派にけだものだ。
「勘ちゃん、ほら、八と先輩の方向いてあげて」
とろんとした大きな目と目があう。快楽に飛んだその焦点はゆっくり自分達を見ると従順に久々知に従った。胡坐をかいた久々知の上にゆっくりとしゃがみこむ。久々知の陰茎を飲み込む姿は中々に淫靡でそそるものがあった。それを見ていたら自然と質量が増し口に己のものを含んでいた八左ヱ門が少し苦しそうな声を漏らす。
「八左ヱ門、久々知と尾浜のほうを向け」
自分の言いたい事を的確に理解したのか彼ら二人のほうを向いて四つん這いになる。少しきついそこを穿つと背中がしなった。
「・・・ん・・・せ・・・んぱい・・・」
吐息交じりの喘ぎ声が下半身を刺激する。ああ、ぐちゃぐちゃにしてやりたい。乱暴に突くとそれでもその快楽を全て受け止める身体に仕立てたのは小平太である。愛おしさが溢れて、食らってしまいたくなる。歯を立てるとその痛みすら八左ヱ門は快楽にした。
「ほら、尾浜に口付けてやれ」
こちらも快楽に飛んだ瞳が一瞥して間近で他の男と交わる彼に口付ける。お互い理性も残ってないのか、この空間がそうさせるのか、一つの躊躇もなく深く口付け舌を絡ませた。
「ふっ、久々知、中々に良いものだろう」
そうですね、と欲にぎらついた瞳が笑った。
八左、と髪を掴んで顔を引き寄せる。一度また深く口付けて耳元で囁いた。面白い事を思いついた、と。








「ひ・・・っあ!」
いつもとは違う体位で深く貫かれ、意識が朦朧とする。気持ち良い。ああ、八左ヱ門の舌は柔らかかった、なんて考えていると急に自分自身を銜え込まれてあまりの快楽に脳が白んだ。
「や、は・・・八左・・・おかしく・・・なる!」
兵助から与えられる快楽だけで既に限界なのに、更に八左の口がもたらす愛撫は強烈すぎた。ぼろぼろと涙が零れる。その雫を兵助が舌ですくっていく。兵助、兵助、おかしくなる。なきながら切れ切れに言うと、可愛い、と強く抱きしめられた。繋がりが一段と深くなってもう何も考えられない。
「・・・やっ・・・い・・・くっ・・・」
目の前が真っ白になる程の快楽。八左ヱ門が喉をならして青臭い精を飲み込んだ。それすら分かっていなかった。果てた時の締め付けで兵助も達する。身体の奥に兵助の精を感じて快楽の余韻が酷く長く響く。飛びそうな意識がやっと戻った頃には八左ヱ門が限界を迎えていた。七松先輩の精を受けてびくびくと震えながら射精する八左ヱ門を見ていると下半身に血が集まるのが分かった。未だ体内にあった久々知自身もまた硬くなり予想外の快感に声が漏れる。
「ねぇ、八にお返し、してあげなよ」
兵助の低い声が心地良く耳に反響する。体制を変えて果てた八左ヱ門を口に含むと丹念に舐めあげた。すぐにまた硬さを取り戻してくる。七松先輩も律動を開始して、ただただ四匹のけだものは快楽を分かち合った。




さて、ほんの戯れの味を占めたのは何も一人だけではなかったという事だけを述べておく。
蜜の味がする秘め事は、各々を魅了した。



   



絵:小平太、勘右衛門→色酉さん  兵助、八左ヱ門→武島さん 
視点は兵助→八左ヱ門→小平太→勘右衛門













2009/11/29
2009/12/03