ひたひたと、青を塗っていく。この色は、自分が持つ目の前の彼に対するイメージ。「自分の色に染める」を体現するとはまさにこういうことか。そんなオヤジ臭い事をふと思って自分の口角がつりあがるのを自覚した。幸いに、そして目の前の彼には大変不幸なことに自分の表情は下を向いているので見えない。ちらりと彼の表情を見やると、違和感がぬぐえないのか何とも言えない微妙な表情で自分がペディキュアを塗り終えるのを待っていた。その表情と、お世辞にも華奢とはいえない成長期の少年特有の筋張った足を見比べる。そこにあるのは不可解な、青。なぜかそのギャップにはっきり言うと欲情した。
「ひっ」
べろり、と足を舐めあげる。いきなりの出来事に気を緩めていた団蔵の口から驚きの悲鳴ともとれない短い声があがった。
「へいだゆ、何、」
するんだ、という言葉はすでに青が乾いていた親指を食んだ瞬間消え去った。口に含んだ指に舌を這わせ、軽く歯を立てる。そのまま目線だけを団蔵に向けると顔を真っ赤にして何かをこらえる様な表情を浮かべていた。
自分は彼の足を強く拘束しているわけではない。簡単に振りほどけるだろう。ただし振りほどいた後のことは保証しない。それがわかっているのか彼はされるがままになっていたし、きっとこのまま無理やり足を振りほどけば彼の足を咥えている僕の口内や顔に傷がつくとでも無意識に思ったのであろう。そんなところがたまらなく愚かで愛しい。
足の甲、くるぶし、アキレス腱。ゆったりと赤い舌を見せながら舐めあげていく。団蔵の息は少しずつ荒くなっていく。それにつられたのか、青に魅せられたのか自分の息も荒く熱くなっていくのがわかった。
「…ね、団蔵」
熱をもった瞳で、さらに執拗に舐めあげる。都合のいいことにここはベッドの上だ。彼は何も口にしなかったが簡単に押し倒された。
「逃げないの?」
耳元でわざと囁く。蚊の鳴くような声で、逃げられるわけないだろ、と返事が返ってきた。
さあ後は溺れるだけ。なんて簡単。
息もできない、息を切らした、「青」、を見た瞬間から僕は呼吸なんてできてなかった。
青
2010/02/03